#氷雪のシアタールーム

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『ラストナイト・イン・ソーホー』感想:かつての搾取へ50年越しの救いを。(ネタバレあり)

『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督の最新作!

主人公はデザイナー志望の女の子。下宿先でおそらくかつてその部屋に住んでいたであろう女性の過去を追想する夢を見るようになるのだが、だんだん恐ろしくなっていく夢に精神を蝕まれていき……というホラーサスペンス。

ミラナはジャパンプレミアで一足先に視聴しました!lnis.jp

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エドガー・ライト監督と言えばやっぱりコメディのイメージが強いけど、そういや有名な3作も"ホラー"コメディだったわと思いました。ホラー演出マジすごかった。

あと音楽のセンスの良さはいつも通り最高でした。今回は主演のアニャちゃん自身が歌も歌っているし曲の感じもゆったりめのものとかも多いのでアゲアゲ!というよりは世界観に浸れるって感じだった。

衣装とかセットもかなり良くて、60年代のシーンはどれも"すんごい良いものを見てる"って感覚になりました。予告とかでキャッチーに使われてる『カフェ・ド・パリ』のステージのシーンは本当に良すぎた!あそこだけでも何度も観たいくらい。

でもそのショウビズ界のきらびやかさ、美しさをこれでもかというくらい丁寧に描いたあと、その世界の劣悪さで主人公と視聴者に大きなショックを与える演出も見事でした。

最悪の舞台裏のシーン忘れられそうにないもんな。あんなの夢で見たらそりゃ精神に異常をきたすよ……。

 

ライト監督は『ベイビー・ドライバー』で、一般的なアクション映画で見逃されがちな罪が裁かれるシーンをしっかり描いていたあたりで結構すごい人だなあと思っていたのですが、今作ではショウビズの世界で搾取され続けてきたかつての女性たちを救い、女性同士の連帯を描き切ってくれたことでかなり信頼度が高まりました。

タクシーとかパブでの絡まれ方の解像度の高さよ!あれを男性監督が嫌なものとしてわざわざ描いてくれるだけで救われたような気持ちになりましたよ。誇張でなく現実だから。

ルームメイトの嫌な奴感もすごいリアルだったな……。トイレで悪口言われるシーンが2回もあるのも精神的によくないよ!こういう"嫌"な描写がやたらうまいよライト監督。

 

ストーリーとして思うところが無いかと言うとそういうわけではなく、彼氏のジョンはいい人間すぎてさすがにちょっと都合がよろしすぎるでしょうよと思ってしまった。

とはいえ他の描写がちゃんとしていたのでこの辺りは今まで描かれ続けてきた「甲斐甲斐しく男の世話をする女」へのカウンターなのかもと思っています。

しかし全員殺して床下に隠してましたは通らないんじゃないのと思ったけどどうなんすかね。臭いとかさ……。隣のレストランのニンニクの匂いってのが伏線なんだとは思うけど、無理あるだろ!あと大家さんに急に殺されそうになったのも謎と言えば謎。

一番気になったのは最後のショーがうまくいって楽しい学生生活を再開!みたいな感じで終わらせてたことなんだけど、図書館ハサミ事件普通に退学レベルでヤバいと思うんだよね。精神的な病気でしたってことでどうにかなったのかな?

 

何はともあれアニャ・テイラー=ジョイちゃんの魅力がヤバすぎるのでそれだけでも一見の価値ありと思います。いるだけで画面が華やかになってすごいよね。

しかも歌もうまい!作中の歌のシーンもかなり良かったです。

 

全然関係ないけどライト監督、ときどきものすごい達者な日本語ツイートをしてて、あまりにも日本語がちゃんとしてるのでライト監督のツイートであることを見逃すレベル。

韓国語とかでも告知ツイートしてるけど翻訳スタッフが良いのかなあ。

あとヒグチユウコさんコラボのポスターが最高。(下のツイートの画像2枚目)

 

ツイートでも書いてるけど搾取の描写はマジでキツかったな。

綺麗なものと汚いもの、どちらもものすごいセンスで描かれているので中毒性の高い作品だと思います。また観たいけど観たくない~!