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『テッド・バンディ』感想:嘘をつき続ける男の本心は?(ネタバレなし)

実在した殺人鬼、テッド・バンディが死刑になった裁判と彼の婚約者の女性について描いたノンフィクション映画。

ノンフィクションといっても伝記的な堅苦しさはなく、むしろ本当にこれが実際にあったことなのか、下手をすればそこらのフィクションよりもドラマチックな作品だった。

 

すごかったのはその演出で、裁判やニュース、会見のシーンではおそらく当時の実際の映像を使ったカットをたびたび挟んでいくことで観客にこれが事実であることを再認識させてくれる。
それから、時系列を操作したり、別々の場所でのカットやSEを効果的に入れ替えたりすることで登場人物たちの置かれた状況と心情を描写するのも面白かった。

 

詳細は書かないけど、ずっと己の無罪を主張し続ける彼と、彼の裁判の様子をニュースで見ながら苦悩し続ける彼の婚約者の双方に、最後の方で大きなどんでん返しというか、そういうことか!となるような告白がふたつあって、そこの演出もかなりうまかった。

そこまでの数十分で積み上げてきた観客の緊張感は婚約者の告白で一度揺さぶられ、最後の最後でまたもう一度、今度はテッドの告白によって、なんだか糸が切れるような、ぐったり椅子に座り込んでしまうような気持ちにさせられたはず。

最後の面会シーンの構成は本当に掴まれるものがあったので、是非演出の妙を、テッド・バンディという犯罪者の恐ろしさを見届けてほしい。

 

ポスターにも載っているコピー、「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」というのは実際の裁判での裁判長の発言とのことで、その当時の映像もエンディングで見ることが出来るのだけど、事実は小説よりも…というのは本当の事なんだな。

 

ひとつだけ気になったのは、作品の中で彼が世論的にも裁判の内容的にも劣勢だということはセリフでは表現されているのだけど、実際どのように報道されているのか、どのような証拠が出ているのかはあまり明確に描写されていないところ。反対に彼を見に若い女性が多く傍聴に来ていて、彼に夢中になっている様子や、彼があの手この手で自分を弁護する様子は描かれているので、彼が劣勢だというのが感覚的に分かりづらかったかな。

 

作中ずっと印象的なのはテッドが「自分は無実だ」と主張し続けるところ。でも実際に彼は犯罪を犯していて、その証拠も挙がっている。

いったい何を考えて、どんな気持ちで嘘をつき続けたんだろう。彼に本心というものはあったんだろうか。考えても分からないし、それこそがシリアルキラーを恐ろしいと思う理由なのだろうけど、彼が無実を主張するたびに何か得体の知れないものを見ている感覚になる。それがこの作品の最も面白い点なのだと思う。

 

テッド・バンディについては公開前に12月新作映画の紹介配信でも触れています。よければご覧ください!